梧桐の日本琴一面
(「梧桐の日本琴一面」・180×60cm×二幅相当[本紙]・パネル・2010)
余、根を遥島の崇巒に託せ、幹を九陽の休光に晞す。
長く煙霞を帯びて、山川の阿に逍遥す、
遠く風波を望みて、雁木の間に出入す。
ただに恐る、百年の後に、空しく溝壑に朽ちなむことのみを。
たまさかに良匠に遭ひ、き[昔リ]られて小琴と為る。
質麁く音少なきことを顧みず、つねに君子の左琴を希ふ。
いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ
言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし
(万葉集・巻第五・八一〇、八一一・大伴旅人)
*
琴を一面献上する。
その機に添える書状に、大伴旅人は
『夢枕に琴の娘子が立ったのです』
という歌物語を綴りました。
その文学性溢れるやりとりは琴という物以上の
贈り物だったのではないでしょうか。
私の故郷・福山市は大伴旅人ゆかりの土地であり、
琴の生産全国一の「琴のまち」、
また多くの書家を排出した「書のまち」と呼ばれます。
いつか旅人の琴の歌を書作品にしたい、と思っていました。
多くの偉大な先人たちへの憧憬と敬意をこめて綴ります。
*
正筆会青年部「暢心展」。
若手のみで構成される展覧会は
本当に贅沢な作品づくりのプロセスと
本当に贅沢な展示の仕方を許していただき
まだ未熟な私たちの作品を温かく見守ってくださった方々のご厚情によって
盛会のうちに終えることができました。
このご恩は、私達の書への取り組みで
お返しするしか術がないと思っています。
本当にありがとうございました。
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