花はちす雀をとめてたわみけり

(「花はちす雀をとめてたわみけり」・24×16cm・2009)*芥川龍之介というと小説のイメージが先行しますが俳句も多く残しています。その中の一つ。「花はちす雀をとめてたわみけり」これはこれで、さらりと柔らかな秀句として成り立つのですが、龍之介の「花はちす」と聞くと、私はどうしても『蜘蛛の糸』を思い出してしまいます。お釈迦様が散歩していたのは美しく蓮の花咲く池のほとり。その池の底を覗き込むと地獄の様子が見えます。お釈迦様はすーっと一筋、地獄にいるカンダタへと蜘蛛の糸を降ろしてやるのですがカンダタは蜘蛛の糸を独り占めしようとして再び地獄へと堕ちて行きます。地獄でどんなことがあっても全く変わらない様子で咲いている蓮の花。確かそんな描写がなかったでしょうか。地獄の出来事にも全く動じぬ蓮の花が、小さな小さな命でたわむ。…それは私の考えすぎでしょうか。いや、龍之介の句だからこその楽しみ方だと思うのですが。 *花はちすの描かれた柔らかな色の料紙を選び、柔らかに、しなうような文字で綴りたい。小さな命を慈しむように、一文字一文字。池の底で何があろうと。

Atelierすゞり

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