「相聞」

(「相聞」・本紙53×225cm・第31回読売書法展〈読売奨励賞〉・2014)***また立ちかへる水無月の歎きを誰にかたるべき。沙羅のみづ枝に花さけば、かなしき人の目ぞ見ゆる。(芥川龍之介「相聞」)********************************夏椿(沙羅)をご存じでしょうか。その枝はすらりと伸びやかで葉の緑は瑞々しく、夏になるとその中に、上質の絹糸を珠に巻いたような白いつぼみが現れます。咲けば、あまりの美しさにはっとするようなそして触れることも憚られるほど薄く透き通る上品な花。なにか、この世のものではないような。「かなしき人」(この詩は『相聞』ですから、もちろん"悲しき"ではなく"愛(かな)しき"なのでしょう)龍之介がこの詩の中にそう表現したのはきっと触れてはならないほど美しく上品ではかなげな人だったのだろうと思うのです。まるで、夏椿の花のように。***以前、「祇園精舎」という作品にも描きましたが赤い藪椿と白い夏椿は、私にとって特別な位置づけの花です。その夏椿の詩を、白と緑のふわりとした紙に認めて。透明感のある作品を目指して。

Atelierすゞり

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