小川洋子 『ことり』

読書会でご一緒してるお姉さんが買ったのだと聞いて、ちょうど【鳥の囀】展のために作品を準備していた時期と重なっていたことと、表紙が愛らしいことにぐっときてすぐに買い、2017年、最初に読む本はこれにしようと決めて寝かしていた本。それが、小川洋子さんの『ことり』でした。   *すぐれた作品ほど、時に運命のようにそっと掌に降りてくる。何となく私はそう思っています。多くの人にそういう運命のような震えを与えるから、良い作品は普遍性を持って残っていくのだと。   *実は、昨日、新年最初のブログに 鳥、と言えば 「羽ばたくこと」、「飛翔すること」、「高く飛ぶこと」が 注目されるかも知れない。私はそう書きました。 でも、"小さな囀り"に耳を澄ますようなそんな一年でありたい。と。その記事を書いたあとに読み始めたこの本。   *この本の中に出てくるのは小鳥を愛する二人の兄弟の慎ましく清らかで小さな日々。主人公の小父さんも、そのお兄さんも、今、世の中に溢れている「上手くいく」「成功する」「願いは叶う」、そんな言葉とはまったく違う世界で生きています。きっと二人がそれらの言葉を聞いたなら否定することもないけれど別の国の言葉を聞くように、ただ不思議な顔をして小鳥のように首を傾げるだけなのではないかと思います。むしろ、この小説の中では小父さんもお兄さんも、いわゆる「報われる」ことはありません。淡い思いも、ひたむきな営みも。ですが、小さな囀りに耳を澄ますようなその日々は、確かに美しく読むものに届くのです。淡々と日々を積み重ねることの美しさ。小さなものを慈しむことの美しさ。  *ああ、この小説に登場する二人のようにこの小説の中で美しく囀る小鳥たちのように、思慮深く、慎み深くあることを「美しい」と感じ、「尊い」と感じる、そんな気持ちを忘れない一年でありたい。とり年の最初に出会った小説は小鳥のようにそっと掌に降りてきてくれた美しい小説でした。

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