「凍蝶に指ふるるまでちかづきぬ」
(「凍蝶に指ふるるまでちかづきぬ」・148×100mm・2016)凍蝶に指ふるるまでちかづきぬ 橋本多佳子***今年の冬のお礼状は、橋本多佳子のこの句を。凍蝶(いてちょう)は冬の季語。蝶に"凍"という文字が冠されるとそこには薄氷(うすらい)のイメージやキンと冷えた空気が漂って、ただでさえ、薄く、美しく、儚いものが、さらにその趣を増すように思えます。指が触れそうなほど、その蝶に近づく時に、人はどうするでしょう。きっと、息を止め、足音を立てず、細い絹糸がピンと一すじ張りつめたような繊細な緊張感を以て自らの気配を消すように近づくのではないでしょうか。そこには全ての時が止まったような一瞬があるはずです。蝶の羽と、自らの指先と、冬の空気と。全てに小さな緊張感と繊細さを漂わせる一句。*軽やかな「凍蝶」の姿を紙面上部に配し、息を潜めるように「指ふるゝまで・・・」を繊細に。敢えて途中での墨継ぎを排し、消えゆくような雰囲気を。但し、左上に始まり、右下部へと持っていくことで墨の変化が単調にならぬように。
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