井上ひさし『新釈遠野物語』
今回は井上ひさしの『新釈遠野物語』。大学時代に古代文学を専攻していたので、柳田国男『遠野物語』は何度か読んでいたのだけど、こちらは初めて。正直、本家の『遠野物語』よりかなり読みやすいと思います。なんせ、私の中では『遠野物語』=「寝落ち本」(笑)夢とうつつの間を行き来しながら読むのが内容的にぴったりだと思ってるから良いけど。さて、『新釈遠野物語』。柳田の解説的な本かと思いきや、柳田へのオマージュを随所に感じさせながらも全く別の作品。主人公に次々と不思議な話を語ってくれる犬伏老人は本家の語り部、佐々木鏡石君よりも遥かに饒舌でインチキ臭い。けれど、本家が朴訥な語りを学者が記録するという性質上、避けて通れなかった平板さ(記録の正確性を問う故。だから寝落ちするんだけど。)とは全く異なるテンポの良さは脚本の巧みな井上ひさしの本領発揮というべきところ。本来、昔話だとか伝承・伝説の類は口頭で語り伝えられてきたものであるから、語りの臨場感というのは大切で、そういう観点で見ると井上ひさしの『新釈遠野物語』は本当に物語として楽しめる。今は、どこにでも光が届き、科学だとかテクノロジーだとかが入り込んでいるけれども私はこういう不可思議だとか妖怪だとか物の怪だとかほの暗い闇の中にあって、自らの理解を超えたもの。自らの力の及ばないもの。それが大切なのではないかと思うのです。そのほの暗い闇の中にこそ「空想」や「創造」が萌芽するのだから。井上ひさしの『新釈遠野物語』で振りを付けたらぜひ読んでほしいのが柳田国男『遠野物語』。なんせ、書き出しが一番すごいのよ。
「此話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり。・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・国内の山村にして遠野よりさらに物深き所には又無数の山神山人の伝説あるべし。願はくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ・・・・・」ほら、"平地人を戦慄せしめよ"ですよ。あわわわわ。
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