池井戸潤『鉄の骨』

そういえば何故か読んだことのなかった売れっ子作家・池井戸潤。あのドラマ「半沢直樹」の原作とか『下町ロケット』の人よね。『鉄の骨』はゼネコンの談合をテーマにした話。いわゆる"必要悪"という名で呼ばれる、社会の歪み(ひずみ)を描く小説。全体的にとても読みやすい。さーっと読めちゃう。ああ、なるほど、じゃんじゃんドラマ化される売れっ子作家だなぁという感じ。"談合"の歯がゆさも汚さも、偏った正義感も、大きなものの動くダイナミズムもそれにスパイスのように恋愛も、上手にさらりと描く。活字離れしてる人にも、小説というものの楽しみを思い出したり活字を読むスピードを上げたりするのにもってこいの作家だと思う。ただね、個人的には社会問題を扱うタイプの小説であるからか、どうしても巨匠・山崎豊子と比べてしまってしょうがない。原因は時代なのか。今は、ちょっとインターネットで検索したらどんな世界の裏話でも出て来ちゃうような時代だからなのか。山崎豊子の作品って、それこそその情報を世に問う上で切腹覚悟で書いてるんじゃないかというような肝の据わりようなのです。太い文章を書く人だなぁと思いました。まさに重厚感。池井戸潤の作品は、業界に詳しい人がSNSで暴露してるような感じ。テンポの良さ、すごい。そうそう、半沢直樹の決め台詞「やられたらやり返す。倍返しだ!」みたいなというかテレビ版『水戸黄門』みたいなというか、そんなとこがあるんだよなぁと思いながら読んでました。どんなに難しい問題に取り組んでても、良いところで印籠が出たら一件落着。だからこそ味わえる爽快感。その辺は好みかなぁとも思います。ただ、社会問題を扱う小説としても、同じ直木賞作家の小説としても、もし読んだことがない人がいたら、ぜひこちらオススメです。(比較しながら読むというのも大いに有りだとおもいます。)山崎豊子『沈まぬ太陽』(新潮文庫)
もちろんもちろん、『白い巨塔』でも良いのですけど。要するに、個人的には池井戸潤より山崎豊子が山村美沙より松本清張が好みのタイプっていうことなのよね(笑)

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