谷崎潤一郎『春琴抄』

月一回ペースで、読書会に参加してるんですが、2016年最初の読書会に当たる今月は、私が課題図書を決める当番だったので、谷崎潤一郎の『春琴抄』にしました。ちょーが付くほど有名な話なので読んでる方も多いと思いますが、物語に登場する、梅に鶯、お琴の音色。まさにお正月の課題図書でしょ(笑)"美"の要素が恐ろしいまでに巧みに練り上げられた、谷崎渾身の短編です。(これ、愛の話だとか、マゾヒズムの話だとか、いろいろ言われてるけど、たぶん究極には"美"の話だと思うのです。)この話ね、色恋のシーンをほとんど書かないのに、物語に漂う色気は尋常じゃない。そこがいいのよね。だいたい世の中、なんでもかんでも見せればいい書けばいいってもんじゃないのだ(笑)
課題図書に選んだのを契機に、それまで読んでた現代の文庫じゃなく、うちにあった初版復刻版で読もうと思って、引っ張り出してきてびっくり。函から出したときにのけぞったくらい。なんと、表紙は漆塗りに金蒔絵。ストーリーのみならず、その装丁までゾクゾクするほど美しい。この艶めかしさ、枕元に置いて寝しなに撫でながら読むのにぴったり(笑)
中を開けて二度びっくり。これ、昭和初期の作品なんですよ。同時代の他の作品より、明らかに変体仮名が多用されてて、なんとなく江戸期の版本を思わせるのです。近松の心中ものとかね。(大学の頃、江戸期の未解読版本をテキストデータ化して出版社へ送るゼミにも所属してたので、見覚えがあるというか既視感に近い感じ。)『春琴抄』に句読点が極端に少ないというのは有名な話なんだけど、今の文庫本で現代仮名遣いに直ったものしか読んでないとそれが単純に「谷崎の実験的な文体」としか感じられないし、そしてその理由が分からないのだと思います。これはきっと、古い日本語のリズムを再現したんです。その時代感や美しさを表現するために。そもそも、日本語は句読点を持たない言語だったわけだし、多様な仮名表現を持ってたのだから。この物語を書くために『鵙屋春琴傳』という架空の本の存在まで見事にでっち上げた谷崎の拘りは、こんなところまで細やかなのかー、ここまでするかーと、呆気にとられながら読みました。凄まじいなあ。さすがド変人・谷崎。
せっかくなので、読書会の当日には、登場するモチーフに合わせて、梅に鶯の名古屋帯をセレクト。雪輪模様の越後紬と組合せて。今までも、本にちなんで着物を選んだりしてたけどこういう季節や文学で遊ぶことができることこそ、着物の醍醐味のひとつよね、そして日本の文化のステキな所よね、と思うのです。

Atelierすゞり

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