詩人の言葉

谷川俊太郎さんが、私の住む町にやってきました。小柄できれいな詩人。小人のような目でした。きれいという言い方が合っているのか分からないけどなんだかいろんなものから等しく距離を置くことを知っている人の淡々と囚われない空気があったように思います。谷川さんの詩集を読むと、ときどき言葉を紡いで生きるということは、どういう事なのだろうと宙を見つめてしまいます。答えを見いだそうと思っているわけではなくて。***フランスがシリアを空爆しました。フランスでテロがありました。私たちがフランスで出会った人は皆無事でしたが、背筋の寒くなる出来事でした。シリアに知人が居たとしてもやはり同じように思うでしょう。いろんな考え方があると思いますが私はいま、この出来事に対してどの国の国旗も掲げることが出来ません。国旗を掲げて行われることというのは本当に注意深く見なくてはいけないと思うから。そして、心寄せたいのは、傷ついているのは、怖い思いをしているのは国旗を掲げた国家ではなくその土地で生きている一人一人の人たちだから。こんな野卑なことではなく、美しいもので世界が満たされたらいいのに。そう、切に思いました。そうしたら、「美の追求頑張ってください。そして、また、パリがもう少し平和になったら、もう一度パリで展覧会を開いてください。」と、フランスにいる方からメッセージをもらいました。ああ、本当に、そうだ。私にいま出来ることは、国旗を掲げることよりも日々、小さな美しいものを慈しんで生きること。詩人が美しい言葉を紡いで生きるように。*** 生きる生きているということいま生きているということそれはのどがかわくということ木もれ陽がまぶしいということふっと或るメロディを思い出すということくしゃみすることあなたと手をつなぐこと生きているということいま生きているということそれはミニスカートそれはプラネタリウムそれはヨハン・シュトラウスそれはピカソそれはアルプスすべての美しいものに出会うということそしてかくされた悪を注意深くこばむこと生きているということいま生きているということ泣けるということ笑えるということ怒れるということ自由ということ生きているということいま生きているということいま遠くで犬が吠えるということいま地球が廻っているということいまどこかで産声があがるということいまどこかで兵士が傷つくということいまぶらんこがゆれているということいまいまが過ぎてゆくこと生きているということいま生きているということ鳥ははばたくということ海はとどろくということかたつむりははうということ人は愛するということあなたの手のぬくみいのちということ     (谷川俊太郎 『うつむく青年』所収)

Atelierすゞり

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