古梅園
小さな灯心に火を点して
十五分ごとに煤皿を回し
長い時間掛けて煤が集められていきます。
室の中の百余りも並ぶたくさんの小さな灯は
ゆらゆらとあまりに美しくて
わけもなく切なく哀しくなるほどでした。
大学生の頃、今の師匠についてから
たくさん使ってきた古梅園の墨。
かな書に携わるからには
いつか行ってみたいと思っていた奈良の古梅園。
一つ一つ、厳選された原料を選び、
一つ一つ、人の手を経て、
一つ一つ、時間を掛けて。
墨が作られていく様を
丁寧に案内してもらいました。
ああ、こんなに大事なものを、大事に扱って、
そしてようやく文字が生まれていくのだと改めて思う一日でした。
握り墨を作る為に、
職人さんの手からそっと渡された練り墨は
熱を帯びて温かく
手の中に柔らかく
小さな愛おしい何者かを掌に握りしめるようでした。
4月には、職人さんの膨大な手間のほんの隙間に、
私自身の手を経ることを許された握り墨が
できあがってくるそうです。
まだまだ若い墨ですけれど、
古梅園の古い墨と摺り合わせて、
次の読売書法展の作品を仕上げようかなと思っています。
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