雪の底で

私は海沿いの小さな盆地の底にいた。


海沿いの盆地というのは不思議な場所だ。

海の気配を感じながら、山しか見えぬ場所。

町中へ出るのもそう遠くないけれど、町の喧噪とは隔てられた場所。

そこにはぐるりと囲まれた土地があって、ぐるりと囲まれた空がある。


ぐるりと囲まれた丸い空からたくさんたくさん雪が降ってきて、

くるりと囲まれた丸い土地をだんだんだんだん埋め尽くしていく。

この丸い空の外でもやはり雪は降っているのだろうか。


雪がこの場所を埋め尽くして、

盆地が盆地でなくなって、

いつしかそのことすら忘れてしまったら、

世界は恐ろしいほど退屈な美しさを手に入れるだろうか。


そんなことを思いながら目を閉じたら、

私は私の形のまま結晶になっていく夢を見た。

Atelierすゞり

美しい文字を。 美しい時間を。 美しい空間を。 The official website of Ayami NAKAMURA  [Atelier Suzuri]