目には見えない桜の色を
桜の花が咲いた。
私にとって、桜と言えば思い出す話がある。
中学生のころ、国語の教科書で出会った
染織家・志村ふくみさんの桜の話。
文章と一緒に、ため息が出るほど美しいうす紅色の着物の写真が載っていた。
それは志村さんが桜の樹皮で
糸を染め、織り上げた着物。
今まで見たことのない空気感のある色。
その当時の私はその着物に釘付けになってしまった。
それ以来「桜色」の美しい着物は、私にとって一番の憧れであり続けている。
教科書に載っていたその美しいうす紅色は、桜の花が開く前の
桜の樹皮からしか得られないらしい。
今から咲こうとする花の色を、
まだ目には見えない花の色を、
その内部にいっぱいに蓄えた桜の木。
そこから色は生み出される。
志村さんの仕事を実際に目にしたことはなかったけれど、
今から咲かんとする桜の色を糸に染め出すその作業は、
きっと粛々とした、祈りのようなものではないかと想像して、
何度も文章を読み返していた。
目には見えぬはずの桜の色を、引き出すということ。
以前、私は雛祭り用に「桃」という文字を
桃色の絵の具に金の顔料を加えたもので書いた。
表現としては、色んな手段を使えるようになりたいと思うし、
そういう表現方法はむしろ好き。
けれど、ほんとうに、ほんとうに辿り着きたいのは、
白黒だけ、「紙の白」と「墨の黒」、それだけで成り立つ世界で、
桜の花の淡い色がそこに感じられる、
そんな字を書けること。
それは、きっとどこまで行っても終わらない道を
行くような話なのだろうけれど。
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筆文字工房すヾり
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おまけ。
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